琉球藍と藍染

藍について
「藍」とは日本での色の名称で英訳では「indigo」と呼びます。人類は古来から植物から色素を抽出してきました。藍色の色素をもつ植物は、日本ではインド藍(マメ科)/大青・ウォード(アブラナ科)/蓼藍(タデ科)/琉球藍(キツネノマゴ科)が存在します。
「琉球藍」は明治時代まではインドからインドシナ半島、中国南部、台湾、沖縄、さらに鹿児島や静岡など西日本で栽培されていました。
時代が変化するにつれ化学染料が多く流通し天然の藍染料は製造するのも手間と時間を要するため次第に淘汰され衰退していきました。現在「琉球藍」はほぼ沖縄のみで栽培されている貴重な存在となっています。
染料の製造方法
自然の為す技によって、色を持たない成分から青い色素が生み出されています。

沈殿法
刈り取った藍葉と茎を水に浸し、色素成分を抽出します。漬け込んだ藍葉が発酵していく過程で、インジカンという藍の色素成分が水に溶け出してくるとともにインドキシルに分解されます。十分に抽出した状態に藍葉を引き上げ、回収したのち貝灰もしくは消石灰を投入し攪拌して空気を送り込むことで藍の色素(インジゴ)が精製されます。
インジゴ色素は、植物の残渣からは分離され、沈殿させてペースト状で水分を多く含んだ色素の塊(沈澱藍、沖縄では泥藍と呼びます)のみ取り出されます。
沈殿藍はインジゴ色素の含有量が高く、紀元前より用いられた製法で、世界最古の染料作りの製法と言われています。
琉球藍染ができるまで
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読み込んでいます: 苗を育てるところからスタートします。
琉球藍は沖縄の品種でありながら紫外線に弱く、沖縄の強い直射日光の日差しでは栽培する事が出来ずとてもデリケートです。
斜光された環境下でないと枯れてしまうため苗は斜光ネットを張ったビニールハウスで慎重に管理し育てていきます。
(11月から植え付けし翌年5月、6月の梅雨時期が刈り取りの最盛期になります) -
読み込んでいます: 育った苗を畑へ植え付けます。
二ヶ月ほどハウスで十分に育った琉球藍の苗を畑に定植していきます。
植え付ける畑も苗と同様に斜光した環境が必須になります。
全く日光の当たらない環境でも生育が悪く、日光が強すぎると枯れてしまうので日陰と日光のバランスにとても気を使います。
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読み込んでいます: 何百キロと刈り取った藍葉を製造所に運搬し大量の水に漬け込みます。
5月の雨期に入ると刈り取り時期の始まりです。琉球藍は雨季に入ると成長のスピードが早くなります。沖縄では雨季が終えると7月には紫外線がとても強くなる真夏になるので雨季に刈り取りを済ませます。刈り取った直後に大量の水を溜めた浸漬槽に刈り取った琉球藍の葉を漬け込みます。
染料にできるのは藍葉の重量に対して10%~15%程度の抽出量になリます。
年間を通して使用する沈澱藍を備蓄するため一度製造を終えた直後に再度刈り取り、製造を行うので大変な肉体労働です。
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読み込んでいます: 刈り取った藍葉を水に漬け込み、発酵して葉や茎から色素成分が抽出されるのを待ちます。
漬け込んだ琉球藍から時間がたつにつれて徐々に色素成分が抽出されます。気温、水温によって漬け込み時間が変化するため目が離せません。
沖縄は熱帯の気候のため5月、6月でも気温が高く、発酵する速度がとても速く判断を誤ると過発酵してしまい、色素成分が分解され漬け込んだ藍葉から色素を抽出することが出来なくなってしまいます。
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読み込んでいます: 藍葉から十分に色素成分を抽出できたら引き上げ、葉を取り除きます。
藍葉を取り除いた直後はとても綺麗なエメラルドグリーンの液が漂っています。
この引き上げのタイミングが気温、水温に左右される為見極めがとても重要です。発酵速度が速くなったりゆっくりだったり調整が難しく深夜に製造することもあるため目を離せません。
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読み込んでいます: 貝灰を水で溶いて投入します。
貝灰を水で溶いて投入することで高アルカリの状態を作り出します。
分量を間違えると十分にPhが上がらない場合もあるので漬け込んだ藍葉の重量に対して十分な量を投入します。
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読み込んでいます: 投入した後は空気を送り込むようにしばらく撹拌します。
貝灰を投入し十分にPhが上昇した状態でしばらく攪拌し空気を送り込みます。
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読み込んでいます: 抽出した色素成分と空気が結びつき、徐々に青い液体へと変化していき、ぶくぶくと青い泡が生まれていきます。
攪拌することで抽出した琉球藍の色素成分と酸素が結合しエメラルドグリーンだった液体が徐々にブルーに変化し青い液体へと変化していきます。
空気を送り込む過程で気泡が発生するため水面が藍色の泡だらけになります。
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読み込んでいます: 泡が落ち着いたら色素が沈殿するのを待ちます。
しばらく攪拌を続けると次第に気泡が少なくなっていきます。気泡がなくなり水面が落ち着いた状態が十分な色素が出来上がった状態です。
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読み込んでいます: 上澄みを取り除いた後、沈殿した色素成分は布を敷いた容器に移し、水分を抜いていきます。
十分なインジゴが生成されると、しばらくすると色素の成分は底に沈澱し色素と高アルカリの上澄み水に分離します。上澄みの水のみ取り除き沈澱した色素は布を敷いた容器に移し数日かけて不要な水分を抜きます。
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読み込んでいます: 色素の塊になった琉球藍、植物の葉から抽出した藍の色素「沈殿藍」の完成です。
畑を耕し、植物を育て、刈り取り、手を加えて沈殿藍を造り、糸や布を染め、製品を作り上げるのです。沈殿藍を作るだけでもかなりの時間を要しますが、実はこの状態では色素の粒子が糸や布に入り込みづらいため染めることはできません。ちゃんと染色を行うためには更に次の工程で、微生物の力を借りた「藍建て」を行う必要があります。
藍建てについて
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読み込んでいます: 泥藍(沈殿藍)を水につけ、不純物を取り除きながら溶いていきます。
製造した泥藍(沈澱藍)を水に溶きザルに越して不純物を取り除きます。水に溶いたのちしばらくすると藍の色素と上澄みの層に分離します。
藍の製造の過程で貝灰を使用しているためpH値が高くなっているため上澄みを交換し余分なアクを取り除き藍建てに適したpH値にするためこの過程を数日間繰り返します。
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読み込んでいます: 上澄みの状態を確認し、pH値と水温を測定します。
pH値とは水素イオン濃度(Potential Hydrogen)の略称です。藍の色素は繊維に付着する付着染料と呼ばれています。
通常の状態では不溶性(水に溶けない)で繊維には容易に付着しませんが。アルカリ環境下で繁殖する微生物(還元菌)が代謝する過程で不溶性から水溶性になり水に溶ける状態に変化します。
そのため藍の染料は常に一定の高いpH値をキープしなければいけません。毎日藍の機嫌を伺いながら沖縄では水飴と泡盛を入れることで還元菌を繁殖させます。
アルカリ性の液の中で繁殖できる還元菌は限られているため、高アルカリの状態と最適な温度を保つことで藍の還元菌以外の雑菌の増殖を抑えることができます。
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読み込んでいます: 沈殿藍が腐敗しない様に毎日朝、夕と2回撹拌が欠かせません。
還元菌が増え代謝が活発になると代謝の過程で酸を同時に発生させるためpH値下がっていきます。
pH値が下がると他の雑菌が増殖しやすくなります。他の菌が増殖すると、pHがみるみる下がって染液が酸化してしまい染める事が出来なくなってしまいます。
菌が増えると染液が酸性に偏る為、その際染液をアルカリ性に保つため貝灰でpH値を調整し調子を整えていきます。
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読み込んでいます: 毎日染液の状況を確認し調子を整え、日を重ねて少しずつ発酵させていきます。
染料の上澄みにたまったブクブクとした泡は、「藍の華」と呼ばれ、染料がうまく発酵しているバロメーターの一つ。藍建てが進んでいるかどうかを判断する目安にします。
発酵が進むと次第に染液の色がブルーからグリーンに変化していきます。
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読み込んでいます: 作品を染める前に試し染めをし、発色を確認します。藍は空気に触れると発色します。
発酵して染められるようになった染液に布を漬け込むと生地は緑がかった色をしていますが、空気に触れることで徐々に藍色へと変化していきます。十分に染まるようになったら藍建ての完成です。
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読み込んでいます: 藍建てが完成したらいよいよ作品の染めに入っていきます。
藍は空気に触れて酸化する事で発色します。そのため染液に生地を漬け込む際には空気をきちんと抜かないといびつなムラになりやすいため、手染めで一作品ずつ丁寧に染色していきます。
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読み込んでいます: 染めて空気に触れさせ、色味を確認します。
きれいな藍色を出すために何度も染め重ねます。毎回染めの濃度や仕上がりをチェックしていると、同じ時間、同じ染液の中に入れていても、気温、天気が違えば染まり方や色合い、濃度がまったく異なります。同じものをいくつも染めることのできる化学染料とは違い、狙ってもなかなかできない領域があります。藍染はまさに「一期一会の色」なのです。
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読み込んでいます: 納得のいく色に染色できた段階でしっかり手洗いし余分な染料を落としていきます。
染め上がったら余分に着いている染料を落とすため何度も水洗いします。
しっかり水洗、脱水して干した後乾いた状態で色味を確認します。さらに濃い色合いを求める場合には再度染め直します。
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読み込んでいます: 仕上げるために天日に当て余分な染料を灼きます。
色味を乾いた状態で確認したら晴れた日に天日に当てます。藍の色素は紫外線に当たると分解される性質なのでしっかり繊維に吸着できなかった色素を紫外線で灼きます。
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読み込んでいます: 天日干しの後お湯に漬け込みアクを抜きます。
仕上げに40度~45度のお湯に浸けます。お湯に浸けると次第に茶色のアクが出てきます。
そのまま2時間ほどお湯に浸けアクが抜け切ったあと軽く水洗いして再度乾燥させます。
天日干しとアク抜きは綺麗な色合いを長く保つために不可欠な工程です。
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読み込んでいます: たくさんの時間、労力のかかる染色方法ですが、琉球藍染めにしかだせない唯一無二の「RYUKYU BLUE®」の完成です。
時間をかける事で生まれる琉球藍の色合いは全てを手作業で完成します。植物の栽培、染料の製造、染色までとても長い期間の掛かる染色ですがどの工程も省くことが出来ません。
ですがそれだけ時間を掛ける事で生まれるとても魅力のある色だと考え琉球藍から生まれる「RYUKYU BLUE®」を沢山の方々に伝えていきたいと思っています。