琉球藍と藍染

藍について

藍色の色素をもつ植物は、インド藍(マメ科)/大青・ウォード(アブラナ科)/蓼藍(タデ科)/琉球藍(キツネノマゴ科)があります。日本で一般的に栽培されている藍は蓼藍(たであい)が主で、特に徳島が製造・技術ともに有名です。

琉球藍は明治時代まではインドからインドシナ半島、中国南部、台湾、沖縄、さらに鹿児島や静岡にいたるまで、広範囲で栽培されていましたが、現在は衰退しほぼ沖縄のみで栽培されており貴重な存在となっています。


染料の製造方法

主にスクモ法と沈殿法の2種類あります。

スクモ法

蓼藍の葉を乾燥させ、ほぼ100日間かけて寝床と呼ばれる発酵場所で、水遣りと天地返しを繰り返しながら発酵させていく製造法です。発酵の最中は、温度は70℃近くにもなり、アンモニアガスも充満するという過酷な条件下で染料は製造されます。
現在のスクモのほぼ100%が徳島で製造され、スクモを製造する専門職を藍師と呼びます。


※見た目は乾燥した葉っぱそのものです

沈殿法

藍葉や茎を水に浸し、色素成分を抽出します。
その水が発酵するのに伴って、インジカンが水に溶け出てくるとともにインドキシルに分解され、さらに空気を送り込むことで酸化させてインジゴを作るというものです。できたインジゴは、植物の残渣からは分離され、沈殿させて色素の塊のみ取り出されます。

  1. インジカン(無色)
  2. <分解>
  3. インドキシル(無色)
  4. <酸化>
  5. インジゴ(青色)


※詳しくは「琉球藍染ができるまで」を参照

スクモ法が、植物の残渣をすべて残しており、インジゴ色素はその中に含まれているため、色素含有量がどうしても少なくなるのと違い、沈殿法はインジゴ色素含量が高いです。スクモ法にしても、沈殿法にしても自然の為す技によって、色を持たない成分から青い色素が生み出されています。


琉球藍染ができるまで

  1. 苗を育てるところからスタートします
  2. 育った苗を畑へ移します。琉球藍葉は沖縄の品種でありながら直射日光に弱く、とてもデリケートです。ビニールテントの中で大袈裟にいうと過保護に慎重に管理し育てていきます
    愛情を込めて育てた藍葉。6月の梅雨時期が刈り取りの最盛期
  3. 何百キロと刈り取った藍葉を漬け込みのために運びます。染料にできるのはごくわずかです。
    刈り取った藍葉の漬け込みの準備を行います。かなりの重量のためこの作業だけでもクタクタになります
  4. 刈り取った藍葉を水に漬け込み、葉や茎から色素成分が滲み出るのを待ちます。
    時間がたつにつれて徐々に色素成分が抽出されます、気温や水温によって漬け込み時間を調整します
  5. 藍葉から十分に色素成分を抽出できたら引き上げ葉を取り除きます。藍葉を取り除いた直後はとても綺麗なエメラルドグリーンの液が漂っています。

    この引き上げのタイミングが様々な環境に左右される為、見極めがとても重要です。
  6. 貝灰を水で溶いて投入します
  7. 投入した後は空気を送り込むようにひたすら撹拌します
  8. 抽出した色素成分と空気が結びつき、徐々に青い液体へと変化していきぶくぶくと青い泡が生まれていきます
  9. 泡が落ち着いたら色素が沈殿するのを待ちます、撹拌工程を終わらせ翌日に沈殿した色素成分を回収します
  10. 上澄みを取り除いた後、沈殿した色素成分は布を敷いた容器に移し、水分を抜いていきます。
  11. おおよそ一日ほど置いておけば大半の水分は抜けてくれます

    水分が抜けた状態
  12. 布に色素が張り付いているので根こそぎ回収します
  13. 色素の塊になった琉球藍、植物の葉から抽出した藍の色素「沈殿藍」です

畑を耕し、植物を育て、刈り取り、手を加えて沈殿藍を造り、糸や布を染め、製品を作り上げるのです。沈殿藍を作るだけでもかなりの時間を要しますが、実はこの状態では色素の粒子が糸や布に入り込みづらいため染めることはできません。ちゃんと染色を行うためには更に次の工程で、微生物の力を借りた「藍建て」を行う必要があります。


藍建て

  1. 泥藍(沈殿藍)を水につけ不純物を取り除きながら溶いていきます。日を置いて藍を沈殿させ、上澄みを交換し余分なアクを取り除きます
  2. 上澄みの状態を確認し、pH値を測定します。pHとは水素イオン濃度の略称で、藍はアルカリに溶けるため、常に一定のpHをキープしなければいけません。また、アルカリ性の液の中で繁殖できる菌は案外少ないため、アルカリを保つことで藍の発酵菌以外の菌の増殖を抑えることができます。pHが下がると他の菌が増殖しやすくなります。他の菌が増殖すると、pHがみるみる下がってしまいます。毎回藍の機嫌を伺いながら沖縄では水飴や泡盛を入れて調子を整えていきます
  3. 沈殿藍が腐敗しない様に毎日朝、夕と2回撹拌を欠かせません。
  4. その際pH値も確認し貝灰で数値を調整し整えていきます。
  5. 毎日染料の状況を確認し調子を整えていき、日を重ねて少しずつ発酵させていきます。
  6. 染料の上澄みにたまったブクブクとした泡は、「藍の華」と呼ばれ、染料がうまく発酵しているバロメーターの一つ。藍建てが進んでいるかどうかを判断する目安にします
  7. 作品を染める前に試し染めをし、発色を確認します。藍は空気に触れると発色します。発色前は緑がかった色をしていますが、空気に触れることで徐々に藍色へと変化していきます
  8. いよいよ作品の染めに入っていきます。藍は空気をきちんと抜かないといびつなムラになりやすいため、手染めで一作品ずつ丁寧に染色していきます
  9. 染めて空気に触れさせ色味を確認します、更にきれいな藍色を出すために何度も染め重ねます。毎回染めの濃度や仕上がりをチェックしていると、同じ時間、同じ染料の中に入れていても、湿度や気温、天気が違えば染まり方や色合い、濃度がまったく異なります。同じものをいくつも作ることのできる化学染料とは違い、狙ってもなかなかできない領域があります。藍染はまさに「一期一会の色」なのです。
  10. 納得のいく色に染色できた段階でしっかり手洗いし余分な染料とアクを抜き、最後にかけ流し(洗い)を行い、余分な染料を落としていきます。この工程も大切な工程で所要時間一日を要します
  11. その後日陰干しで乾かします

たくさんの時間、労力のかかる染色方法ですが、琉球藍染めにしかだせない唯一無二の「RYUKYU BLUE」の完成です。